◇「熊谷守一 生きるよろこび」展
3月のことなのでずいぶん前に終わってしまいましたが
東京国立近代美術館で開催された
「没後40年 熊谷守一 生きるよろこび」展に行ってまいりました。
最終日2日前。少し混んでました。
え?こんなに人気あるの?と少し驚きながら入場。
展覧会のタイトルは「生きるよろこび」
その名の通り
カラフルに彩られた猫や鳥、昆虫、草花などが生きるよろこびを表現するかのようでした。
◇熊谷守一の作品の印象
熊谷守一の作品は動物や植物など身近なものが書かれています。
とても純粋な印象で分かりやすく絵を描く楽しさが伝わって来る作品です。
色遊びが上手でカラフルな画面は目を楽しませてくれます。
◇下手くそに見えるけど?
とにかくこの人の絵は
シンプルで色彩が楽しいです。
そして、とても下手くそ風に書いているのですが
よく見るととても純度が高く完成された世界にも見えます。
シンプルな構図はマティスの作品に通じるものがあります。
猫はとても簡略化されていますが、よく形を捕えています。
骨格や肉のたるみ具合なんかはとてもよく観察されて描いていますね。
これは上手い人でないと描けないかもしれません。
◇下手も絵のうち
実は東京芸術大学をトップで卒業するほど上手な人でした。
はじめはアカデミックな作品を描いていました。
経験を重ねるうちに作風が変化していったようです。
60代頃から変わってきたといいます。
それから97歳の生涯を終えるまで
モリカズワールドは時間をかけてゆっくり変化していったようです。
アカデミックな絵を描くことが、つまらなく感じたのでしょうか?
晩年のインタビューでは、上手い絵はつまらない先が見えてしまう。
下手はどうなるかわからない(だから面白い)
とモリカズさんは言っています。
そして有名な「下手も絵のうち」という言葉も残しています。
◇仙人と呼ばれた暮らし
はじめは暗闇の中のロウソクとか陰影のある絵を描いていましたが
50代に住む家を持ってから、おおらかな色彩の画風に変わっていきました。
家でほとんどの時間を過ごしたそうです。
庭でじっと虫や鳥、植物などを観察してました。
退屈ではなかったようです。むしろそんな暮らしを楽しんでいました。
石ころをじっと眺めているだけで何か月も何年も暮らせますーという具合に・・。
朝起きて軽い食事をしてから
庭で植木をいじったりゴミを燃やします
これが終わると・・
とりあえず何もする事がありません・・
と言う彼はあご髭を伸ばし仙人と呼ばれていましたが
展示を見ていくと仙人らしからぬ一面も見えてきます
◇色彩
モリカズ作品は色彩豊かなイメージですが
かなりデリケートでな色の選び方をしています。
互いの色が引き立てあうような配色に計算されているのです。
そこがきわどくスリリングなのですが
彼は色彩理論の研究をしていたらしく
残されていた当時のメモやノート、スケッチが展示されていました。
鉛筆で描かれたスケッチでは
ここは何色、あそこは何色を塗るとか
細かくメモが記入されていました。
かなり計算していたのですね。
◇実験的だったりもする
山の風景を描いた実験的な作品もありました。
まずトレーシングペーパーとカーボン紙で
同じ下絵を複数枚作ります。
作ったそれぞれの下絵に様々な時間や天候の違いを
違った色で表現します。
同じ構図を使い、それらを違う色で表現することで
全体がどう変化するか試していたようです。
モリカズさんは自由気ままにに描いているイメージですが
それだけではない研究者的な面も知ることができました。
◇海外の美術からの影響
平面を意識した画面構成はきっとマティスの影響だと思います。
海外の絵画にも積極的に
研究したり取り入れていたのですね。
でも、ただの真似で終わらず
色、構成、形の全てが
自分の表現になっています。
海外からの影響は研究や様々な実験と
時間をかけて混ざり合うことで
モリカズワールドとなっていったのだと思います。
代名詞の赤い輪郭線もその一つですね。
◇ギュッと凝縮された世界
モリカズさんは売るための絵は描かなかったそうです。
経済的に苦労しても
やりたくないことはやらない主義。
余計なものは捨て
自分の納得のいく事だけをする生き方は
シンプルな構成や
平面的な塗り方にも
現れている気がします。
ムダなものは省き
本当に必要なものだけを描いています。
描かれた世界は
ハッタリのない日常の風景です。
それらは暮らしの中でモノを
よく観察することや
たくさんの絵画的な実験の
積み重ね中から生まれました。
シンプルに生きることで
彼の内側から必要なことだけをギュッと 搾りだした作品は
人の心にスゥーっと入ってきます。
多くの人の心に響く何かがあるのですね。
◇「ストイックさ」と「遊び心」
シンプルに凝縮していくストイックさ。
そして気持ちを和ませる動物たちや色彩の中に感じる遊び心。
ストイックさと遊び心は真逆の性質のようですが
それぞれが溶け合うように混ざり合い
1枚の絵の中で両方感じることができます。
1点、1点が見ごたえのある作品でした。
それが200点以上あったので
見たあとはとても疲れました。
会場を出た後・・・
会場を出た後、千鳥ヶ淵の緑がいつもの緑と違って見えました。
目が洗われたような感覚になりました。
「ねえねえー」と
植物たちが話しかけてくるように親しげに見えるのです。
モリカズさんはこんな風に庭の植物と話して
いたのかなと不思議な感覚になりました。
見逃してしまった方・・・
モリカズさんが住んでいた家の跡地にできた
東京豊島区熊谷守一美術館があります。
小さな個人美術館ですが、ここで熊谷守一の作品に会えます。
だいぶ前に一度行って、とても良かった記憶があります。
絵の好きな人は行ってみることをおすすめします。
◇映画「モリのいる場所」
こんな熊谷守一の暮らしを描いた映画5月26日から「モリのいる場所」が上映されています。
楽しい映画に仕上がっているようなので近いうちに見に行ってみようと思います。